一冊の本を読み終える頃には、世界の見え方が一変する。
私の場合、そうした読書経験は動物や生き物について書かれた本を読んだときによく起こります。
この記事では、私が動物イラストレーターとして世界の見え方が変わった、と思えた本を紹介します。

目次

  • 動物イラストレーターが本を読む理由
  • 本紹介①-動物についての本
  • 本紹介②-人間についての本
  • おまけ-人工知能の本

動物イラストレーターが本を読む理由

物心ついた頃から、動物が好きでした。
赤ちゃんの頃から親友だったくまのぬいぐるみがいたからか、読んでもらった絵本の影響か…今となっては何がきっかけだったかは思い出せません。
ともかく、子どもの頃から動物が好きだったのですが、作品のモチーフに動物を選ぶようになったのはずいぶんと後になってのことでした。
私はなぜ動物を描きたいんだろう?そもそも、動物って何?
そんな疑問が首をもたげ、うまく描けなかったのです。
大学に入り、少しずつ動物をモチーフにした作品をつくりはじめましたが、もやもやとした疑問は払拭されず、むしろどんどん大きくなっていきました。

なぜ人は、動物のお肉を食べる一方で、動物を可愛いと思うのか。
動物には凶暴な面もあるのに、見ていると優しい気持ちになるのは何故か。
動物は、人間との共存をどう思っているのか。

そして、そもそも私が描きたい、表現したい「動物」とは一体何なのだろう?

学生時代、それらの疑問の答えを探るため、動物や生き物に関する本をいろいろと読むようになり、その中で一つ気づいたことがあります。
それは、私は動物そのものを表現したいわけではないということ。
「正しい生態の描写」や、さらには「人の代わりとしての擬人化」といった表現は目指していないのです。
私が動物をモチーフとして選ぶのはもしかしたら、大好きな動物を通して自己や世界を知りたいのかもしれません。
もちろん、自己のなんたるかや、世界が何かなんて答えは、本を読むだけではなかなか得られません。それでも本を読み、動物や人間のことを深く知ることで、世界や自己に対する認識が変化していくのは、たまらなく面白い体験です。

これからも読書と制作を通じて、自分なりの「動物」の表現をすこしでも深めていきたい。
そして、動物について知る過程で得たもの―動物が私にもたらしてくれる「癒やし」や「他者への優しい気持ち」―を作品としてアウトプットし、皆さんの元にお届けできたらいいな、と思います。

以下、本のご紹介です。

本紹介①-動物についての本

・ゾウの時間 ネズミの時間
生物を「時間」と「サイズ」に基づいて捉え直している本。生き物によって知覚している世界はずいぶんと違うのだと驚きました。とくに1mm以下の生き物の住む世界は、同じ地球とは思えない!
「みんな、自分とは全く違う世界に生きているのかもしれない」そう思うだけで、ほんのすこし世界にやさしくなれるのかな?なんて思えた本。

この本は、猫の歴史から始まり、猫の生態、体や脳の仕組みや感情、それらを踏まえた猫の見ている世界などが科学的な視点で綴られています。
猫といえば、犬と一二を争う人気のペット。私にとっても、ついつい擬人化してしまいたくなる愛すべき動物です。そんな身近な猫を通して、人間である自分がいかに人間視点で物事を捉えがちかということに気づかせてくれた本です。

・ダンゴムシに心はあるのか
私は、心とは脳の働きによるものだと思っていました。
ところが著者は、「心」を「内なるわたくし(=行動を抑制する隠れた活動部位)」と定義し、大脳のないダンゴムシに様々な実験を行うことで「心とは何か」を探っていきます。
脳のない生き物にも心があるとしたら―「心」の定義について、改めて考えるきっかけにもなった本です。

・「つながり」の進化生物学
「はじまりは、歌だった」そんな魅力的なコピーに惹かれ手にとりました。
鳥やハダカデバネズミ、チンパンジーなど様々な言葉をもたない動物と人間の差を示しながら、コミュニケーションとは何かを探っていく本。
なぜ人間は言葉をもつようになったのか、なぜ人間だけが「死」を恐れるのか、なぜ赤ちゃんは泣くのか…そんな身近な疑問をもとに、楽しくコミュニケーションについて考えることができます。

本紹介②-人間についての本

・海馬 -脳は疲れない-
脳科学者の著者と糸井重里による対談形式の本。「物忘れは老化のせいではない」「30歳を過ぎてから頭は爆発的に良くなる」なんてワクワクするような内容がぎっしりです。
人間の脳に興味を持つきっかけにもなり、読書の幅が広がっていった思い入れ深い一冊。

海馬―脳は疲れない (新潮文庫)

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・利己的遺伝子から見た人間

人や動物などの生命体を考えるうえで、遺伝子は切っても切り離せないもの。「生物は遺伝子によって利用される”乗り物”に過ぎない」という、動物行動学者のリチャード・ドーキンスが提唱した「利己的遺伝子」を解説しながら、そこから見えてくる生き物や人間像を、身近な例もまじえて綴った本。

・幼児期 -子どもは世界をどうつかむか-
今年は幼児向けの仕事が多かったため、「自分もかつて子どもだったから」と子どもについて理解した気になっている部分を取っ払いたくて読みました。
人間社会や自分や他者への人間理解などを、どのように子どもが掴み取っていくのか。幼児期を捉え直すことで、人間らしさをも知ることのできる本です。

おまけ-人工知能の本

・人工知能は人間を超えるのか
これ、まだ読み途中なので迷ったのですが、あまりに面白いので載せておきます。上に挙げた本ともつながる内容もたくさんあるんです。
例えば、人工知能がまだ完成していないのは、人間のもつ「特徴量をつかむ力」「意味や文脈を理解する力」が再現できないからだそう。
特徴量とはたとえばいろんな猫を見て「猫だ」とわかるような、何か同じ対象をみているとき、自然とそこに内在する特徴に気づき理解する力のこと。これは、「幼児期」の本にでてくる「人間理解」「代表性」の話に通じます。
また、意味や文脈を理解する力というのは「「つながり」の進化生物学」にでてくる、「人は音の流れを切り分けることができるのと同じように、文脈や状況といった意味の流れも切り分けることができる」という分節化の話に繋がる…といった具合に。「生命」の本質って、なんなんだろうなぁ。

どれもわかりやすく面白い本なので、よければぜひ読んでみてください!

 

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